日本の成長戦略「フィジカルAIに10.5兆円」とは?17分野・官民370兆円を解説
#フィジカルAI#ヒューマノイド#日本成長戦略#AI・半導体#ロボット#半導体
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1章 日本の成長戦略はフィジカルAIに10.5兆円を投資
「フィジカルAIに10.5兆円」
いよいよ日本も、ヒューマノイドに本気で投資するのか。そう感じた人も多いと思います。
フィジカルAIは「画像・音声・動画・各種センサーを統合し、現実世界を理解して物理的タスクを遂行するAI」と説明されます。
多くの人が思い浮かべるのは、人型ロボットでしょう。
足があって、顔がある。会話することもできる。映画に出てくるようなヒューマノイドです。
実際にはフィジカルAIは、必ずしも「人型」ではありません。
フィジカルAIは「現実世界を認識し、物理的に動作し、タスクを完了できる」ロボットです。
例えば、自動運転車、自律ドローン、工場のFA機器、物流ロボット、港湾荷役機械、建設機械、防災ロボット、介護支援ロボット、農業機械、海洋ドローン。
フィジカルAIは「AIを搭載した現実世界で作用するあらゆるロボット」です。
日本はここで勝てるかもしれない。
日本には国産LLM(ソブリンAI)を作るべきという議論があります。僕も賛成です。LLMモデルやマルチモーダルAIは国内で作った方が良いと思います。
ただし、現在のClaudeやChatGPTの水準の、LLMをいきなり作ることは難しい。また、そのレベルのベンチマーク競争で最先端であることを想定しないとならないわけでもない。
ただ日本はフィジカルAIを作るために、特にマルチモーダルなLLMの作成が必要。でもLLMの性能で競うのではなく、LLMをブレインとして、現場データ、ロボット部品、半導体、制御、安全認証、手の技術、公共調達を束ねた、フィジカルAIのためにです。フィジカルAIのサプライチェーンを国内に作るためにです。
2章 日本成長戦略17分野の早見表
今回の日本の成長戦略は、方針がはっきりしています。
「需要を増やす政策」ではなく、「供給力を作り直す政策」です。
日本成長戦略とは、リスクや社会課題に先手を打った官民連携の戦略的投資計画です。世界共通の課題解決に資する製品・サービス・インフラをつくりあげるのが目的。つまり、税金を呼び水にして、民間資金をどこへ向かわせるのかという重要なテーマです。
2024年の「新しい資本主義」の時は景気の刺激と再分配が押し出された政策が目立っていました。新しい「資本主義って結局何?」という疑問が一斉に沸いた時ですね。
一方で、2026年の成長戦略は明確に「イノベーション」を目指す政策です。
17の戦略分野は下記の通り。
- 1つ目は、AI・半導体、デジタル、通信、量子のような情報・計算インフラ。
- 2つ目は、防衛、宇宙、海洋、造船、マテリアルのような経済安全保障分野。
- 3つ目は、医療、エネルギー、フードテック、防災、港湾のような生活・社会インフラ。
- そして4つ目が、コンテンツです。
今回の17分野はバラバラに見えて、一貫性があります。
今回の成長戦略は、2024年当時の成長戦略であった「観光立国」のように「日本に来てもらう」政策がない。
日本の中で作れる力を増やし、むしろ日本から海外へ輸出すべきである。そういった政策に大きく振り切ったものだと思えます。
政府は2040年度までに、この17分野全体で370兆円規模の官民投資を目指すと報道されています。重点は「AI・半導体」「宇宙」です。
国家として勝ち筋があり、かつ安全保障上も重要で、海外市場も狙える領域に投資を寄せるという「投資」という原理原則に則った方針です。
3章 フィジカルAIは成長戦略17分野を横断する

実は、フィジカルAIは17分野のひとつではありません。
フィジカルAIは、「AI・半導体」分野の中にある主要な製品・技術の一部です。独立した第18分野ではありません。
最も重要とされる「AI・半導体」分野の主要な製品・技術として、①フィジカルAI、特にAIロボット、②フィジカル・インテリジェント・システムの中核を担う半導体、③バーティカルAI、つまり領域特化型AI、この3つが挙げられています。
フィジカルAIは、AI・半導体政策を、現実世界の市場に接続するための実装レイヤーなのです。
半導体を作る。AIモデルを作る。データセンターを整備する。クラウドを整備する。通信インフラを整備する。
でも、それだけでは日本の「現場」が変わりません。
工場で部品をつかむ。物流倉庫で荷物を仕分ける。港湾でコンテナを動かす。建設現場で危険作業を代替する。介護現場で移乗や見守りを支援する。
ここまで実装できて、AIが日本の供給力を増やす技術になります。
フィジカルAIは、「AI・半導体」領域をデータセンターの中に閉じ込めるのではなく「現場」に持ち出すためのプロダクトです。
AIロボット市場は2030年頃を境に急拡大し、2040年には約60兆円規模へ成長すると見込まれています。その中で日本は、米国・中国に並ぶ第三極として、世界シェア3割超、2040年に20兆円の市場獲得を目指すとしています。
フィジカルAIにおいて、日本には強みがあるのです。
政府資料では、日本は産業用ロボット市場で世界シェア約7割を有し、モーター、減速機、センサー、蓄電池などの主要部品でも高い競争力を持っています。
日本は工場の中で、同じ動作を正確に繰り返すロボットは強い。部品、制御、品質、安全性、耐久性も強い。一方で、「人間の生活空間や、予測不能な現場で、自律的に動くロボット」ではまだ出遅れています。
ここがまさにフィジカルAIの領域です。
フィジカルAIは、現実世界を認識して、状況を理解し、行動を生成する。ロボットは「プログラムされた機械」から「現場で学習し、改善する機械」になる。これは現在のAI(LLM)の作り方のアナロジーに該当します。
ところが、政府資料ではフィジカルAIによってAI開発競争の重心が変わると予想しています。現在のAI開発競争の重心は、Web上のほぼ全てのデータと異常量の計算資源を投下した「データセンターとGPU、かつその電力」の過剰投下の競争です。
それらすべての開発・運用コストを賄うことができる唯一の2国。アメリカと中国です。そのアメリカと中国のさらにごくわずかなディープテック企業のみが寡占している状況です。
少しだけ話を迂回しますが、フィジカルAIに10.5兆円といっても、年間で10.5兆円の予算というわけではありません。報道では2040年までの15年間の累計として10.5兆円です。これを15年でわると、年平均では0.7兆円規模になります。
ちなみに、おなじ半導体・フィジカルAI領域であるNVIDIAと比べると、巨額な投資額の印象は薄まります。
- 日本のフィジカルAI投資 0.7兆円/年
- NVIDIA2026年度R&Dは約3.0兆円/年
完全に同じR&Dではないので、直接比べることはできませんが、参考にはなります。世界時価総額1位のNVIDIAは、日本の投資額の4.3倍を一社で賄ってしまっています。
でもだから日本が勝てないという話ではありません。フィジカルAIの世界では、デジタル資源だけではなく、「現場」の物理的なデータが必要です。AIとロボティクスを統合し、信頼性と安全性を担保しながら現場実装と改善を続ける「統合力・運用力」の競争に移る可能性があると整理されています。
「現場力」「統合力」「運用力」「品質力」。それはトヨタ自動車を代表とする、元来のものづくり大国日本の強みに他なりません。そもそも日本人の国民性が物作りや現場仕事に向いている可能性が高い。
生成AIの第一ラウンドは、どれだけ巨額の投資をして最先端LLMを作れるかという競争でした。ここでは日本の環境上、正直勝ちようはありませんでした。
でもフィジカルAIでは、デジタル空間で完結しない以上、「現場」のデータが必要になります。
現場に入れないといけない。壊れてはいけない。人を怪我させてはいけない。粉じん、振動、湿度、熱、ノイズに耐えないといけない。24時間動かないといけない。メンテナンスできないといけない。現場の作業者が使えるUIでないといけない。安全規格や認証を通らないといけない。導入後にデータを集め、モデルを改善し、コストを下げないといけない。
AIと製造業と現場運用の総合競争です。フィジカルAIでは先端半導体はあくまで一部の部品。
同様に、現実世界の機械には、センサーが必要です。モーターを制御するマイコンが必要です。電源制御が必要です。アナログ半導体が必要です。耐久性のある部品が必要です。低遅延で安全に動くエッジAIが必要です。
アナログなセンサーやマイコンや旧世代の半導体の重要性も増すことが予想されます。
フィジカルAIは、半導体政策の重要な出口です。AI半導体を作る。それをロボットや機械に載せる。現場で使う。現場データが返ってくる。モデルが改善される。さらに必要なセンサー、マイコン、制御チップ、電源、通信が増える。それがまた半導体需要を生む。
この循環を国内で作れるかどうか。作れそうに思えます。
4章 日本がフィジカルAIの需要先として強い理由
どれだけ良いロボットを作っても、導入先の需要がなければ量産できません。量産できなければ価格は下がらない、価格が下がらなければ導入できない。導入できなければデータが集まらない。データが集まらなければモデルが改善しない。
実は、需要という観点で日本は100点満点です。なぜなら生産人口が圧倒的に減っているからです。
世界で最も早く少子高齢化社会を迎える先進国です。一方で極めて高い解雇規制もあります(経営者が人に投資しにくい)。
導入の最初のステップが公共調達です。
フィジカルAIは、いきなり民間企業だけに任せると、需要だけでは導入が進みにくい。導入コストが高いからです。安全性も未知数。現場オペレーションの変更も必要。だから、企業は慎重になります。
そこで、国や自治体が、防災、インフラ点検、港湾、介護、公共交通、行政サービスの一部などで、先行して導入する。
まず使う。データを取る。改善する。国内市場を作る。そのうえで海外に出す。
単に「ロボットに補助金を出す」という話ではありません。AIモデルと部品と半導体と現場導入を同時に設計する。安全規格と認証と公共調達も同時に設計する。
日本のドメスティックなサプライチェーンの構築を想定しています。
アメリカが圧倒的なのは、巨大クラウド、GPU、基盤モデル、スタートアップ、資本市場、AI人材です。中国の強さは、巨大内需、量産、低価格化、こちらもAI人材、政府主導の実装です。
では日本の強みは何か?日本の強みは「現場力」、そしてその背景にある規律とモラルの「国民性」です。あらゆる現場で、日本人は世界中のどの国民よりも道徳的に、高いモラル意識で働きます。
そこには、世界一の労働者の現場のデータが眠っています。品質・安全・制御・部品・現場改善の蓄積、まさにフィジカルAIのためのデータです。
今回の成長戦略で「AI・半導体」の中核にフィジカルAIが置かれているのは、筋が通っています。
AIを、文章生成やチャットボットで終わらせない。半導体を、データセンター向けだけで終わらせない。ロボットを、従来型の産業用ロボットだけで終わらせない。各社の工場や倉庫の中に眠っていた現場データを宝に変える。
僕たちはもとよりロボットが好きな国民性です。みんなドラえもんが好きなのです。猫にも見えないけど、別にたぬきにも見えない、青くて丸いロボット。どちらかというとちいかわに似てます…。
5章 中国とテスラがヒューマノイドを選ぶ理由

中国とテスラモーターズはフィジカルAIというよりも、ヒューマノイドに投資しています。
人型でなくとも、車輪でもいい、アームでもいい、ドローンでもいいのに、なぜ?
ヒューマノイドの優位性は、世界の方がすでに人間用に設計されているということです。
ドア、階段、廊下、エレベーター、机、棚、工具、スイッチ、レバー、作業台、工場のライン、病院、介護施設、家庭。当たり前ですが、すべてが人間の規格に合わせられています。
複数のタスクを一つのロボットがこなすには、人間に近い身体構造に価値があります。McKinseyも、ヒューマノイドは人間向けに設計された環境に統合され、単一タスク型ロボットより幅広い機能に適応できる可能性があるとしています。
もちろん、現時点では安全性、稼働時間、器用さ、コストの課題も大きい。ヒューマノイドは「いま一番効率のよいロボット」というより、人間用の現実世界をそのまま機械が学習するための汎用プラットフォームになる可能性があります。
テスラはOptimusを「危険で、反復的で、退屈な作業」を行う汎用・二足歩行・自律型ヒューマノイドロボットとして位置づけています。同社は完全自動運転と二足歩行ロボティクスを、視覚・計画・推論ハードウェアを使って「現実世界の自律性」の問題を解こうとしています。
テスラはロボットを「自動車の次の製品」として見ていません。「労働そのものをソフトウェアで代替する」事業として見ている。
現在のデータセンタに閉じ込められたAIは、あれほど賢いにもかかわらず、皿洗いも、掃除も洗濯もできません。雑務ほど人間がやってしまっている。
テスラとしてはソフトウェアの力を、家庭にもちこみ実際の家事も雑務もそれ以上の仕事も任せるヒューマノイドを想定しています。
そして中国は、これを国家の産業政策として見ています。
中国工業情報化部は、2023年に人型ロボットのイノベーション発展に関する指導意見を出しています。ヒューマノイドを、人工知能、ハイエンド製造、新材料などを統合する技術であり、コンピューター、スマートフォン、新エネルギー車に続く破壊的製品になり得ると位置づけています。さらに、2025年までに量産と実証応用を進め、2027年には国際競争力のある産業エコシステムを構築する目標を掲げています。
中国が狙っているのは、ヒューマノイドそのものと、その量産。
「脳」としてのAIモデル。「小脳」としての運動制御。「肢体」としての腕、脚、手、関節、アクチュエーター。そして、センサー、チップ、電池、OS。それらを標準化し量産工場化し、現場で実証する。
次の本格的な産業基盤にしようとしています。
中国にとってヒューマノイドは、製造業だけではなく、より汎用的な、仕事、サービス、公共、生活インフラにAIを実装するための入り口になります。
フィジカルAIに作業を覚えさせるには、膨大なデータが必要です。そのとき、人間とまったく違う形のロボットだと、人間の作業動画やモーションキャプチャをそのまま使いにくい。
しかし、ヒューマノイドであれば、人間の動作を模倣学習に使いやすくなる。
もちろん、これは簡単ではありません。人間の動画を見せれば、ロボットがすぐ同じことをできるわけではない。
特に人間の手の自由度、触覚、力加減、バランス制御は極めて複雑で、現在のロボットハンドやアクチュエーターはまだ人間に大きく劣ります。McKinseyも、人間の手にはおよそ20~27自由度があり、把持、ねじり、手の中での操作を可能にしている一方、現在のロボットハンドはその有効自由度や触覚・力制御で大きな制約があると指摘しています。
ボトルネックは「手」です。人間のために作られた世界は、ほとんどが「手」で道具や物を扱うように最適化されています。この「手」を再現できるかがヒューマノイドの実用性において、大きな関門になりそうです。
難しいが市場も大きい。テスラ・モーターズや中国はそこを本気で取りにいっています。
6章 日本はヒューマノイドロボットに参入するのか

日本にもヒューマノイドロボットに参入する意欲はあります。ただし、中国のように「人型ロボットを国家産業として量産する」と前面に出してはいません。フィジカルAIの一つの形として、ヒューマノイドも含めているという位置づけです。
主役はあくまでフィジカルAI。日本の質の高い現場データを活かした領域特化型AIや、製造業等と融合したフィジカルAIの方が日本にとって優位性がある。
一方で、研究開発では、実は明確にヒューマノイドも狙っています。
内閣府のムーンショット目標3では、2030年までに、工場、病院・介護施設、家庭、研究室、災害現場などの特定現場で働く「汎用自律人型AIロボット」の開発が目標として明記されています。
さらに、東京大学、早稲田大学、大阪大学、東北大学などのプロジェクトとして、汎用自律ヒューマノイド、困難環境で作業するヒューマノイド、農業ヒューマノイド、電子皮膚搭載ロボットハンドなどが並んでいます。
実際に日本は、ホンダのASIMO以来、ヒューマノイド研究の歴史が長い国です。むしろ世界に先駆けすぎていて、当時の外部環境の方が追いついていなかった。
現在は民間でも動きがあります。KDDIとAVITAは、国内開発のフィジカルAI技術とヒューマノイドを組み合わせ、サービス業務での社会実装を目指す戦略提携を発表しています。
また、マクニカはUnitreeと組み、ヒューマノイドや四足歩行ロボットを使ったフィジカルAIソリューションの日本市場での実証・展開を進めるとしています。
日本にもヒューマノイドへの参入意欲はあります。まだ「国家としてヒューマノイド量産で中国と正面から競争する」という段階ではないというだけ。
日本が先行してやりたいことは、人型の見た目を競うことではない。中国のように低価格ヒューマノイドを大量に出すことでもない。テスラのように巨大な垂直統合を一社で通貫してやることでもない。
日本はフィジカルAIを、現場・部品・安全・データ・公共調達で国家レベルでサプライチェーンを完成することを優先している。結果的にヒューマノイドのイノベーションが先に起こることはありえるかもしれませんが。
7章 日本のフィジカルAIを支える現場力と国民性
日本は世界最高の「労働人材」が集まる国と言われています。海外で起業したことのある経営者は、日本で起業できることは贅沢なことだとおっしゃる方が本当に多い。
日本で暮らしている私たちはあまり意識することがありませんが、日本人はやっぱり「モラル意識」が高いですし、何だかんだで「規律を重んじる」。それゆえにイノベーションが起こしにくかったり、昭和的なハラスメント問題があった副作用も否定できません。
しかしながら、僕の主観ですが国民性としては世界最高の「労働者の質」であると思います。その「最高の労働者の質」をデータとして与えられるのは日本なのです。
そういえば、日経平均の上がり方が異常ですね。僕は日本株を持っていませんが、(欲しいんですけど、資金移動が面倒くさくって持ってないんですが)、日本の価値に世界が気づき始めているのかもしれません。
僕たちは、僕たち自身がもっと自信を持った方がいい。
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